サンリオに入った理由が、少し変わっている。

就職活動の頃、サンリオは全く新しい業界であり、新しいビジネスモデルだった。本当に自分でも不思議なくらいに吸い付けられたと言う。きっかけは、当時の彼女が、卒業したらサンリオに入るんだ、と話していたことだった。

サンリオという会社は何なんだろう、と調べると、かわいい文房具などが出てくる。おやおや、と思って会社説明会に行った。そこで大学 4 年生の山口さんが聞いたのが、創業者・辻信太郎氏の話である。

キャラクタービジネスなんての、キの字もない。

語られたのは企業理念に通じるエピソードだった。戦争のない世界にしたいよね。そのためにサンリオってあるんだよ。皆さんは若いから、次の世代がそれを背負って、ずっと平和な日本なり世界にしてもらいたい。そのためのビジネスなのだ、と。

当時の言葉が、ソーシャルコミュニケーションギフトビジネスだった。

ショッキングな、心に刺さる言葉でした、と山口さんは言う。それで他の会社は全部やめた。会った瞬間、聞いた瞬間に決めてしまった。

配属は経理部だった。1970 年代後半である。高度成長期の後で、日本の企業には財テクという運用が広がっていた。効率的な資金の使い方をしなければならないと経営者が求められた時代で、多くの企業が株式投資や債券投資をやっていた。サンリオもその一つだった。

ただし、投資先の選び方には理由があった。

投資していたのは、任天堂。そして東宝。株式用語で任天堂を指す言葉がトランプで、東宝は映画、というのだと山口さんが説明した。大株主の 5 本の指に入るほど株を買い、その会社と協業し、アライアンスを組んでいく。今の言葉で言えばエンターテインメントである。

なぜこんなに投資するのか、と辻氏に聞いたときの答えが、口癖になっていた。

投資することによってその情報がつかめるんだよ、というのが口癖でした。

投資をするには、世界の経済環境も、嗜好も、ニーズもウォンツも知る必要がある。投資すれば、その情報がつかめる。おまけにキャピタルゲインとリターンも得られる。一石三鳥、四鳥なわけです、と。

将来のビジョンも早かった。ギフトとは人と人の心を結ぶこと。ならば、心を結ぶ場が必要になる。当時まだテーマパークという言葉はなかったが、家族が集う場所が必要だよね、と辻氏は言い続けていたという。

サンリオが成長した要因を聞かれて、山口さんが挙げたのは企業文化だった。一致団結、向上心、変革心、戦略性。そうしたものが社員の中に息づく文化があった、と。

仕掛けも具体的だった。会議の冒頭か終わり、あるいは両方で、辻氏が必ずエピソードとともに理念を語る。月に 1 回のサンリオマンスリーコンベンションには、基本的に全社員が集まる。本社にいる人間だけでも 300 人、400 人。会議は 3 時間から 4 時間に及び、辻氏の話は長いと 1 時間、普通で 30 分。しかもそれが面白くて、飽きなくて、笑える。

もう一つが数字だった。全体会議で事業部別の売上、利益、利益率が発表される。各部がこういう戦略でやったらこうなりました、と報告するから、施策も見える。そして月次の営業利益の 3% を社員に分配する。入社年次からのポイント制で、1 点 5000 円。4 点持っていれば 2 万円になる。

チームで評価されるから、モチベーションにつながる。そして、なぜその事業部が良かったのかを聞けば、それは理念に沿ったイベントだった、という話になる。お母さんと子どものコミュニケーションを図るイベントをやったら、そういうものなんだと言って買ってもらえた、というふうに。

失敗も語った。9.11 と、その後の IT バブル崩壊である。詳細は後半で本人が語っているとおりだ。

サンリオを退いた後に設立したのが、アドバイザリーオフィス ZeroFive である。社名の由来も、辻氏の真似だという。

辻氏のソーシャルコミュニケーションギフトビジネスは、ギフトが人と人をつなげ、それが社会とつながれば平和になる、という考え方だった。山口さんはこう置き換えた。人と人のつながりとは、相手の気持ちになって仲良くすること。それは和合することである。和はゼロ、合はファイブ。だから ZeroFive。

事業の中心にあるのが、辻氏が会社を起こす前に作った「十の経営論」を、山口さんが噛み砕いて経営者に伝えることだ。

第一の経営論は、再び積む、と書く。決まったこと、積み上がったプロジェクトを全部崩す。そして、問題が起きたときの要因を一つずつ、もう一度積み直す。これは良いのかな、3 回目の会議で揉めたけれど良いのかな、と確かめながら。

そこで積めないものが出てきたら、そこがブラックポイントである。これが失敗の原因だな、これが積めない限り次に行けないな、と分かる。そのシミュレーションを頭の中でやる思考プロセスだという。

結論として言えば、何事にも決断するとは覚悟を決めることだ、と山口さんは言う。経営判断とは、覚悟を決めるためのジャッジメントである。

十のうち、残る九つはこの第一を補完する考え方だと捉えている。たとえば矛盾論。矛盾の中に本質があるという話になる。朝令暮改もよし、朝令朝改もまたよし。ずっと考えて良いものが出るなら、素直に変えるべきだ、と。社長の悪口を言うのもストレス解消ですから、と辻氏自ら言っていたという。

もう一つ、取締役を務める会社がある。指紋認証カードを開発する会社だ。クレジットカードにセンサーをつけ、その人が持ったときだけアクティブになる。落として手を離せば、1 秒もかからずただのプラスチックカードに戻る。だからスキミングも盗難も怖くない。保険料も安くなる。羽田空港などで実証実験が進み、国際ブランドの認定も取れつつある。

最後に、多くの経営者を見てきた立場から、成功と失敗を分けるものを聞かれた。答えは一言だった。

もう一言で言うとコミュニケーション。

企業文化を作るには、コミュニケーションが円滑でなければならない。円滑になるとは、信頼関係があるということ。そして信頼関係は何で結びつくかといえば、企業理念である。それが行動指針にもなっていて、そのとおりに行動しているトップであること。だから全てトップで決まる。

トラブルが起きたときも、原因はそこの間のコミュニケーション不足ですね、という会議になるのだという。

対面か、オンラインか、という話にもなった。人間が出す波動があるから、それを受けるか受けないかで伝わり方が変わるのではないか、と。

伝達はそれでいいけども、コミュニケーションはやっぱりリアルに会う。

コミュニケーションは心も入りますから、と話した。

VOICES

名言

キャラクタービジネスなんての、キの字もない。
投資することによってその情報がつかめるんだよ、というのが口癖でした。
もう一言で言うとコミュニケーション。
伝達はそれでいいけども、コミュニケーションはやっぱりリアルに会う。

VOICE BEHIND THE VOICE

山口さんの原音

対話の中で、ふと口にした言葉。
編集部が聴き取った、その人の核にある原音。

その彼女を、嫁にしました

だからその会社を教えてくれた、その当時の彼女を嫁にしました。

──サンリオを知ったきっかけは、当時の彼女だった。卒業したらサンリオに入るんだ、と話していたのを聞いて、どんな会社なのかを調べた。かわいい文房具がいろいろ出ている。おやおや、と思って会社説明会に足を運んだ。

そこで聞いた創業者の話が、想像とまるで違った。キャラクターの話は一切なく、語られたのは戦争のない世界にしたいという理念だった。会った瞬間、聞いた瞬間に、他の会社を全部やめて、ここに行くと決めた。

結果として、47 年をこの会社で過ごすことになる。そして山口さんは、その入り口を教えてくれた人と結婚した。導いた側とカップルの両方が成立している、と番組でも笑いが起きた一幕である。

テーブルの下で、足を蹴られる

あまり言い過ぎると辻が私のテーブルの下で足をポンと蹴られてるんですよ。

──9.11 と、その後の IT バブル崩壊で株式市場が大暴落した。日経平均は 1 万円を割る。総資産 1700 億のときに 500 億ほどを投資していて、数百億の損失を出した。普通の会社なら、トップの進退に影響する事態である。

辻氏の判断は明快だった。これは俺の責任だ、だからどこにでも出る、事情を説明して謝る、と。そして東京証券取引所で、創業者と山口さんの 2 人で記者会見をした。各社の記者が詰めている場所である。

2 人で説明する。これだけ投資していて、これだけ下がって、こういう銘柄でこうなりました。いずれこの会社の業績は良くなりますから、と一生懸命に話す。そのとき、言い過ぎるとテーブルの下で足を蹴られる。そして辻氏がまた喋り出す。トップができるだけ早く説明し、責任の所在を明確にする。それが逆に評価になる。山口さんが現場で学んだことだった。

CLOSING

明日への誓い

私が今、このアドバイザリーオフィス ZeroFive のミッションとして抱えているのは、やはりいろんな起業家さん、それから企業をやられて社会のために役に立とうと思っている経営者さんに寄り添って、一緒に喜び合う。そういう関係性を作っていきたいというふうに思っております。

一緒に喜び合うということは、成長を喜ぶ心。自分の成長、例えば勉強するにしても、それが明日への成長につながるという、そういうことを目指す。そうなるように寄り添ってアドバイスしていきたいというふうに考えている次第です。

その先に見えるものは、私がどうなっているかというと、私と同じような、サンリオの辻さんの教えを同じように語れる人をたくさん増やす。その先には山口英雄の分身がたくさんいて、いろんな人がいろんなことを実例を交えながらおしゃべりして、いろんな経営者なり、生きる人の支えになるような、そういったアドバイザーになっていく人も育てるということが、次のステージで待っている次第です。

今その準備もいろいろしている次第ですので、いろんな講座の開発だとか、いろんな企業さんの実例を集めたりですね、そういうふうにやっている次第ですので。ぜひ、そういう私のコンサルを受けたいとか、講座を受けて自分も一緒に活動してみたいとか、そういう方がいらしたらお声掛けいただけると、私としては非常に嬉しいことになります。

ぜひ皆さん、成長に喜びを感じる。そういうことを一緒に、私と一緒にやってくださる方、ぜひお声掛けください。