CHAPTER 01

原点 ── 子役、舞台、そして「巨匠にはなれない」と気づいた日

クックデリ株式会社の上席執行役員。日本全国の高齢者施設に毎日 22 万食を届ける物流の指揮を執る男は、もともと食品業界の人ではなかった。

小学生の時に子役をやってた関係で、二宮さんという方の舞台に出てて。社会人になってからは、今度は制作会社、裏方の仕事をやっておりました。

舞台の世界に足を踏み入れた石井さんが、ある日、車中で巨匠から趣味を尋ねた。

二宮さん、何が趣味なんですか?と聞いたら、「俺は舞台が趣味だな」って。こう隣で運転されながらおっしゃったんで。

仕事と趣味が、完全に同じ。この方には勝てないかな──石井さんは、そう直感した。舞台の世界は、自分の領分ではない。別の道を探そう、と決めた。

これが、石井さんの最初の大きな選択である。勝てない世界からは、潔く撤退する。後に給食業界で 23 年、そしてクックデリで 7 年、合計 30 年にわたって食の現場を歩み続けることになる人物の、最初の判断だった。

CHAPTER 02

営業職に憧れて ── たまたま、給食会社だった

舞台の世界から離れた石井さんが次に選んだのは、営業職だった。やったことはなかった。けれど、やってみたかった。

営業職をやりたいということで仕事を探していたとき、親戚の方を介して給食会社を紹介していただいて、そちらでお仕事をするようなことになりました。

「営業をしたい」と思ったら、たまたまそこが給食会社だった──。本人は淡々とそう振り返るが、これが結果として 30 年に及ぶキャリアの起点になる。

23 年間続けられたっていうことは、向いてたんですね。

とても有意義な 23 年間を送らせていただきました。

石井さんが所属していた給食受託会社は、病院・福祉施設へ給食を提供する仕組みを持っていた。料理を作って運ぶ事業ではない。社員(調理師・栄養士・管理栄養士)を、病院や施設に配属させる事業である。原材料の下処理、調理、提供まで、施設の厨房に常駐するスタッフが行う。

石井さんの仕事は、その給食契約を受託する営業だった。施設の運営者と話し、必要な人材像を聞き取り、契約を結び、現場の調理師を派遣する。食を「人」として届けるビジネス、と言ってもいい。

CHAPTER 03

23 年で見えた、給食業界の構造的な壁

しかし、給食受託会社のビジネスには、構造的な弱点があった。それを、石井さんは現場で身体に刻み込んでいった。

調理師さんが少なくなってきたっていうのも給食業界に当然ありまして、そうすると安定したお食事というのが、以前よりも提供しづらくなってきた。

人材不足は、慢性化していた。とりわけ高齢化が進む地方では、施設は増える一方で、調理師は集まらない。

高齢者がいらっしゃる施設というのは、首都圏というよりも、例えばかなり地方の方であったり、高齢化が進んでいるところの方が、やはりお食事にお困りのところが多い。ですが給食会社は人材を確保しなくちゃいけないので、そういった地方とかの受託というのを、なかなか良しとしないんですね。

ここに、石井さんの心を動かすものがあった。最も食事に困っている施設に、給食会社は手を伸ばせない。受託すれば、人を送り続けなければならない。地方に派遣できる調理師が確保できない以上、契約を断るしかない。

ちょっとお困りの施設様が、日本全国にいっぱいあるんだな、というのを分かったときに、今の給食会社でいいのかな、というのがちょっとありまして。

23 年現場を回った末に、石井さんは構造的な結論にたどり着いた。

調理師さんを派遣するタイプから、お食事を派遣する方にしないと、この日本の今の課題に答えられないのではないか。

人を送るのではなく、食事そのものを送る。ビジネスモデル自体を、根本から組み替える必要がある──。それが、給食業界に 23 年身を置いた人間の、現場からの結論だった。

CHAPTER 04

「一番美味しかった」会社へ

完全調理済み冷凍食品(完調品)のメーカーは、複数存在する。石井さんはそれぞれを比較した。基準は、ひとつだった。

その中でも一番美味しかったクックデリに、転職しました。

シンプルな選択基準だった。美味しい。それが、すべての出発点だった。

私は給食受託会社からこの会社に移ったというのは、やはり日本全国の高齢者施設に美味しいお食事をお届けしたいと思って、転職をしたという経緯がございます。

クックデリの規模は、転職時から大きく成長した。

現在、日本全国 7,000 の施設様に、毎日 22 万食をお届けしております。

冷凍商品なので、北海道の利尻島から沖縄、奄美、種子島、五島列島、対馬列島まで、僻地・離島の施設にも届く。給食会社時代に「届けられなかった」エリアこそ、石井さんが今、日々開拓している場所である。

製造拠点は、全国に約 90 の協力工場。お魚を上手に作る工場には魚を、煮物が得意な工場には煮物を、それぞれ専門特化させて発注する。全国の「得意」を集めて、全国に届ける──。石井さんはそう表現する。

CHAPTER 05

湯煎 10 分が、施設食の常識を変える

スタジオで実食された商品は、聴き手 2 人を驚かせた。鶏の唐揚げ、サバの塩焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草の白和え、厚焼き卵──。すべて、湯煎 10 分。

唐揚げ、これ、湯煎で?

はい、湯煎しただけのものでございます。

ん? 美味しい。湯煎したと思えないね。

冷凍品であることを、食べただけでは分からない。施設によっては、「クックデリを使っていることを、他の施設に言わないでほしい」と頼まれることもあるという。

うちは手作りをメインで、おいしいものを出してるから、ということで。それぐらい、内緒で。

石井さんはこの逸話を笑いながら語ったが、これは冷凍完調品が「妥協の選択肢」ではないことの強い証拠だ。むしろ、入居されている方々の声は「美味しくなった」というケースが多いと言う。

技術的な工夫もある。鶏肉は、火が入ると固くなる。高齢者は固い肉を食べづらい。湯煎で温めるだけで、しっとりとした食感を保てる設計になっている。きんぴらごぼうは、繊維が口に残らない柔らかさ。サバは生臭さもパサつきもない。

そしてもう一つ、施設食で重要なのが塩分管理である。一般的な施設食は塩分を抑えるあまり「薄味すぎて美味しくない」と入居者の不満を呼ぶことが多い。クックデリは違う。

しっかりとした味付けの方が分かりやすくて、食欲が湧いて、完食いただけると、必要な栄養価が取れる。

栄養士が設計した献立に、お出汁を上手く使うことで、塩分を抑えながらも満足感のある味を実現している。「薄味で残される」より、「美味しく完食」──シンプルだが、施設食の最終ゴールに最も近い設計思想である。

CHAPTER 06

災害備蓄と日常を、ひとつにする

クックデリのもう一つの顔が、災害時の備蓄食材としての価値である。電気・ガス・水道が止まる災害時、自然解凍だけでも食べられる。湯煎すらいらない。

石井さんは、NPO 法人「災害福祉広域支援ネットワーク・サンダーバード」の理事を務める。サンダーバードは、災害時に高齢者施設の支援ネットワークを構築する非営利団体である。石井さんはその中で、食の担当として動く。

能登半島地震でも、クックデリの商品をお届けに上がって、支援に伺いました。複数回行っております。

サンダーバードの活動は、災害が起きた後だけではない。事前の防災にも力を入れる。石井さんが提案するのは、ローリングストックという考え方だ。

施設様の中に 5 日分の備蓄を確保することと、フードロスを配慮したローリングストック、効率的な方法のご提案をさせていただいております。

通常の備蓄食材は、数年に一度の点検と入れ替えが必要で、しかも「美味しくない」というのが定番だった。ところがクックデリは違う。毎日普通に使っていれば、自然と備蓄が回る。献立の主要日の 2 日前に商品が届く仕組みなので、施設には常に 2 日分の在庫がある。これに従来の常温備蓄 3 日分を足せば、5 日分の備蓄が、特別な努力なく成立する。

普段食べながらストックする、ということですよね。

クックデリの仕組みは、「災害時の備蓄」と「日常の食事」を、ひとつにする設計である。災害食が美味しくない時代は、終わりつつある。

CHAPTER 07

高齢者食の、セーフティネットを築く

石井さんが、ご自身のミッションを語る言葉は、極めて明確だ。

クックデリは、高齢者食のセーフティネットを構築する、というミッションがあります。

セーフティネット──「何かあった時に、クックデリが身近にあるという安心」を、日本全国に整備したい。離島でも、僻地でも、災害時でも。最後の食を、誰一人として欠けさせない仕組みを作る。

数字で見ると、ゴールはまだ半分にも届いていない。

日本全国の特別養護老人ホーム、介護老人保健施設は、14,000 施設ほどあります。

現在、クックデリが届いているのは 7,000 施設。まだ半分が、このセーフティネットの外にいる。

引き続き、精力的にクックデリを知っていただける、そんな活動を継続していきたい。

石井さんの仕事は、営業ではあるが、単なる営業ではない。日本の超高齢社会において、最も食事に困っている施設に、最も先に届けるための社会インフラ整備である。給食会社時代に「行けなかった」地方・離島こそ、今の石井さんが、優先的に足を運ぶ場所だ。

VOICES

名言

調理師さんを派遣するタイプから、お食事を派遣する方にしないと、この日本の今の課題に答えられないのではないか。
その中でも一番美味しかったクックデリに、転職しました。
普段食べながら、ストックする。
高齢者食の、セーフティネットを築く。

VOICE BEHIND THE VOICE

石井さんの原音

対話の中で、ふと口にした言葉。
編集部が聴き取った、その人の核にある原音。

「勝てない世界」から、潔く撤退する

二宮さん、何が趣味なんですか?と聞いたら、「俺は舞台が趣味だな」って。

──石井さんが舞台の世界から去った理由は、シンプルだった。仕事と趣味が同じ人には、勝てない。これは敗北宣言ではなく、自分の強みが活きる場所を選び直す、という冷静な判断である。給食業界に身を置いた 30 年間、石井さんは派手に跳ねるタイプではなく、現場を丁寧に積み上げるタイプであり続けた。最初の選択が、その後すべての歩み方を決めている。

給食会社が、断らざるを得ない場所こそ

高齢者がいらっしゃる施設というのは、首都圏というよりも、例えばかなり地方の方。ですが給食会社は人材を確保しなくちゃいけないので、そういった地方の受託を、なかなか良しとしないんですね。

──石井さんが転職を決めたのは、業界の構造的限界を、現場で 23 年見続けたからだった。最も食事に困っている人ほど、サービスが届きにくい。この矛盾を解くために、人を送るビジネスモデルから、食事そのものを送るビジネスモデルへと、自分の立ち位置を変えた。ビジネスを動かす人ではなく、ビジネスの仕組みを変える人になる、という決断だった。

災害備蓄と日常を、ひとつにする

普段食べながらストックする、ということですよね。

──災害食は、平時には邪魔者だった。特別な棚に置かれ、忘れられ、賞味期限切れで捨てられる。石井さんが提案するのは、「災害食」というカテゴリーそのものを消す発想である。日常の食事が、そのまま備蓄になる。これは商品の話ではなく、社会インフラの設計思想である。AI 時代になっても、人は食べないと生きていけない。日常と非常時を、同じ仕組みで支える──石井さんが設計しているのは、そういう未来である。

CLOSING

明日への誓い

明日への誓い。現在の課題と今後の夢について、お話しさせていただきます。

現在の課題は、3 つあると思います。

1 つ目は、社会課題である人材不足が、高齢者施設でも問題になっていること。介護職員の不足はメディアでも取り上げられていますが、実は厨房の調理師も不足しています。一方で、施設の食事は和食・洋食・中華と美味しく、栄養バランスも考えて 365 日朝昼晩、普通食・ソフト食・ミキサー食まで、お客様の状態に合わせて提供することが必要です。これに、オールマイティに対応できる調理師が、年々少なくなっています。

2 つ目は、現在多くの高齢者施設が私の以前所属していた給食受託会社と契約していますが、昨今の委託費・食材費の高騰から、施設経営を圧迫している現実があります。

3 つ目は、冷凍の完調品を施設のお食事として提供していいのか?と、まだ半信半疑のお客様がいらっしゃることです。

そして、今後の夢です。

クックデリは「高齢者食のセーフティネットを構築する」をミッションに掲げ、現在 7,000 の施設様に毎日 22 万食をお届けするまでになってきました。日本全国、離島や僻地、どこにでもお届けしています。日本全国の特養・老健は、14,000 施設ほどあります。引き続き、精力的にクックデリを知っていただけるよう、活動を継続していきたいと思います。

クックデリにお問い合わせいただきましたら、施設様にお伺いし、無料の試食会を実施させていただきます。まずはご試食いただいてから、ご利用のご検討をいただければ幸いです。

最後になりますが、お食事にお困りの日本全国の高齢者施設様に対して、美味しくて、健康的で、楽しみのあるお食事を、クックデリがお届けしたいと考えております。

本日はお招きどうもありがとうございました。